どこかの口論で、誰かが顔がひどい(意訳)みたいなことを言ったとき、「周りの人は誰もそんなこと言ってない」っていうのにも表れているように思うけれど、少なくともポールの前ではみなイエスマン。そして謳い文句にもあった、「望めばすべてが手に入り、どこへ行くことも、何を食べることも、何を吸うこともできる」という言葉。そして序盤でジョニーに諭されていたが、人々=自分のファン
そんな中、自分のことをあまり知らず、自分の意見をはっきりと述べるジェニーはポールにとって好ましく映ったように感じられる。「母に連絡しなきゃ」っていう発言も微笑ましい。
ジェニーといるとき、白い足場が取り払われ、でもそのままではなく舞台上に残されたピースをはめ合わせるように配置しなおされる。
それはまるでマーニーの件などで生じた心の溝や人が離れていく孤独感を埋めてくれるような存在であることを表しているようだった。
ジョニーは親友でもあり仕事仲間でもあるかけがえのない存在だが、ジェニーはスターとしてのポールよりも、ポール自身を見て、愛してくれる存在になりえたのかもしれないと思う。それもポールの振る舞いによってだめになってしまうのだけれど。
2幕の終盤、マーニーの両親のところに行ったとき。ジェニーはドン引きした表情を見せていたけれど、ポールは罪悪感を払拭し、償いをするために最善を尽くしたのかもしれない。
「彼女もマーニーなんです」というところ、ジェニーへの視線の圧がやばかった。
うわー、最悪!なんだこいつ!と思う反面、似た存在が近くにいることでご両親を慰めようとしたり、お金が全てのポールはお金をあげましょうと提案することで慰めようとしたのかもしれない。故人を偲び、あたたかい思い出話に花を咲かせ、悲しみに寄り添うということを知らないから。誰もポールにそうしてくれなかったから。
そして言い合いが激しくなり、ジェニーに帰りましょうとたしなめられるが、ポールはどうしてこうなっているのか分からない。
お前のせいだ、と口汚く罵ったり、ステージを終えて優しくマーニーに語り掛ける場面。
ちょっとしたDVじゃんって思うんだけど、もしかしたらそういうのが実家であったのかもしれないって思う。
ポールの父と会ったときに「新しい仕事」と言っているあたり、定職には就いていないはずである。「お前がいなかったから」と借金を作るあたりも、こういうことは日常的にあったのだろう。送迎してくれたとジョニーが言ったとき、「違う、酒をひっかけてたんだ」というあたりから、お酒好きだったことがうかがわれる。
酔って母に手をあげたり口汚く罵っていたのかもしれない。だからポールも自然にそうしてしまった。もしかしたら、ジェンダー的なイギリスの社会的背景もあったのかもしれない。
全て偏見だけど。
でも、ジェニーはきっと温かい家庭で育ち、精神的に独立した強い女性だった。
ジェニーの「私、あなたのガールフレンドじゃないの」という言葉は爽快だった。だからこそポールが惹かれたのかもしれない。
しかし、そんな強い女性だからこそジェニーはポールから離れてしまう。
「どいてくれないなら警察を呼ぶから」
の後に放たれた、
「試してみる?」
という言葉。これをきっかけに壊れてしまった気がする。
もしかしたら、マーニーの最期の言葉、
「ジョニーに言うなら私、知らないから!」
に重ねてしまったのだろうか。
ジェニーが去った後、何時間も話していたみたいだと笑うポール。
あんなに悲しく身を引き裂かれそうに笑う人、初めて見た。
誰かポールに愛情を注いであげて…。
現実逃避させる無機質なドラッグやその場限りで朝起きて虚しくなるような肉体関係じゃなく、あったかいお布団とほかほかの家庭料理、そしてもふもふのネコチャン連れてきてあげて…。抱き合わなくていいからハグしてあったかい腕の中で心穏やかに眠らせてあげて…。
「あげて」って言い方、上から目線で嫌だけどさ、それがポールにとって一番の薬だと思うんよ。